2024年6月10日(月)、日比谷スカイカンファレンスにて、特別企画「官民で語る、日本が目指すべきAIガバナンスの絵姿」を実施しました。
AIガバナンス協会(AIGA)では企業の自主的な取組をベースとしたAIガバナンスの社会実装をリードするべく、2024年に入って行動目標の策定、研究会の開催、国内外のポリシーメーカーとの議論や政策提言などの活動を重ねてきました。
これと並行して、「AI事業者ガイドライン1.0版」の公表、日本国内のあるべき制度の検討、岸田首相の生成AIに関するOECD閣僚理事会サイドイベントへの出席など、国内外の政策展開も新たなステージを迎えています。
こうした背景を踏まえ、CxOクラスによるご講演や政府のAI戦略チームトップである村井英樹内閣官房副長官を交えた対談を通じて、最新の技術動向を踏まえた今後のあるべきAIガバナンスの絵姿や、その中での企業・政府の役割を議論する特別企画を実施しました。
以下、イベントの様子の一部をお伝えします。
開催概要
主催:AIガバナンス協会(AI Governance Association)
日時:2024年6月10日(月)14:00-16:00
会場:日比谷スカイカンファレンス(東京都港区西新橋1丁目1−1 日比谷フォートタワー 11階)https://hibiya-skyc.jp/
オープニング「日本が『AI大国』になるために 〜官民の経験からみるAIガバナンスのこれから」
登壇者
豊田麻子様 株式会社NTTデータグループ 常務執行役員 グローバルガバナンス本部長
開会に寄せて、株式会社NTTデータグループより豊田麻子様に「日本が『AI大国』になるために 〜官民の経験からみるAIガバナンスのこれから」をテーマにご講演をいただきました。
総務省(ご入省当時郵政省)、広島市、株式会社NTTデータグループという官民それぞれの視点や国内外の拠点をまたぐご経験に基づき、日本におけるAIガバナンスのこれまでの取組や、今後のAI政策において目指すべき方向性、民間ステークホルダーとして拡大を続けるAIGAへのご期待などについて、来場したAIGA会員各社のAIガバナンス担当役員・部長などのハイクラス層をターゲットに視座をご共有いただきました。
従来のITとの比較で、AIでは技術特性や社会への影響に鑑みてうまく使いこなすことがますます重要になること、AIガバナンスによりビジネス機会の創出とリスク統制のバランスが取れたマネジメントを実現する必要があることが強調されたのち、AIガバナンス室の設置や社員トレーニング等を含む同社の取組や社外連携活動にあたっての考え方を官民横断での経験を踏まえて整理いただき、参加者全体でAIガバナンスの重要性・あるべき方向性を再認識しました。
特別対談「日本が目指すべきAIガバナンスの絵姿」
登壇者
村井英樹様 内閣官房副長官、AI戦略チーム長
大柴行人様 Robust Intelligence, Inc. 共同創業者、AIガバナンス協会 理事
続いて、現在の政府のAI戦略チームのトップを務める村井英樹内閣官房副長官をスピーカーとしてお迎えし、AIGA大柴理事が国内外の直近のAI関連動向を交えつつ大枠で日本のAI政策が目指す方向性についてお話を伺う特別対談を実施しました。
村井内閣官房副長官からは、AI戦略会議における重点検討事項や、法制度の要否も含めたガバナンスの枠組みの検討の最新動向、G7広島AIプロセスなどの国際的なフォーラムで日本政府が重視してきた考え方や今後注視すべき議論など、AIの開発・提供・利用に関わるあらゆる企業がフォローすべきポイントを凝縮してご紹介いただきました。
偽情報・誤情報や生成AIを用いたウイルス作成等の悪意ある利用などのAIのもたらすリスクに対して、政府がどのような政策ツールを動員し、企業がどのような対応を進めることで社会全体で低減していくことができるのかについて、大柴理事からの直近のリスク事例やAIスタートアップ目線での考えの共有も交え、活発な議論が行われました。
特に強調されていたのは、AI利活用を前向きに進めるために、ビジネスでの実装事例が重要だという点です。ガバナンスの取組の前提として必要なのが、AIの活用により利便性が向上したり、社会課題が解決できるという社会の実感です。そうした事例をAIGAを中心とする民間企業が積み重ね、かつ発信していくことの重要性が議論されました。
村井副長官からは、AIGAのような団体が活用とガバナンスを両輪で達成する取組を広め、自主的にスタンダードを作りながらAIの社会実装をリードしていくことへの期待感もお示しいただきました。
こうした議論も踏まえ、大柴理事からは、今後AIの社会実装を加速することを見据えた以下3点のアナウンスがありました。
①業界や業種の垣根を越え、会員数が60社に到達したことを踏まえ、より一層の活動の充実を目指すこと
②今後、一般社団法人化の議論を進めていくこと
③企業がAIガバナンスの実装状況を自己診断するためのツール「AIガバナンスナビ」の開発を、各WG連携して進めること
本セッションを通じて、企業がAIの健全な社会実装を進める上で意識すべき政策動向や、今後より良いAIガバナンス実装を進める上で官民が果たす役割について、議論を深めることができました。
WG活動報告
登壇者
長谷友春様 有限責任監査法人トーマツ パートナー、AIガバナンス協会 認証・標準WGヘッド
AIGAでは、会員の有する知見や抱える課題を蓄積してパブリックコメントや自民党AIPTへの登壇、政策提言などの形でAIガバナンスに関する意見を発信してきました。昨今、AIリスクへの対策の必要性の高まりから、「AIガバナンス認証制度」へのニーズが高まっており、政策議論の場でもルールの履行確保手段として検討が進みつつあります。
こうした動きを踏まえ、認証・標準WGではAI監査に関する過去の議論の蓄積や法令・標準の最新の状況の調査や、開発者・提供者・利用者にまたがる会員へのアンケート調査、ヒアリング調査を実施の上、認証制度の枠組みについて論点整理を行い「AIガバナンスの認証枠組みに関するディスカッションペーパー ver 1.0」を作成しました。具体的な認証制度の枠組みとして、たとえば①一定の基準のもと認定された検証機関が、②AI事業者・サービスを検証し、③最終的にその結果をもって民間団体等が認証を行う仕組みが想定されること、今後、認証目的や体制、インセンティブ設計などの議論が求められることを取りまとめています。
本セッションではディスカッションペーパーの概要と、今後も継続して会員や外部機関も含むマルチステイクホルダーで議論すべき論点を会員と共有しました。
クロージングスピーチ
登壇者
生田目雅史様 東京海上ホールディングス株式会社 専務執行役員CDO グループデジタル戦略総括、AIガバナンス協会 理事
第1部特別企画の閉会に寄せて、東京海上ホールディングス株式会社より生田目雅史様にAIGA理事としてクロージングスピーチをいただきました。
特別企画の各セッションのハイライトを振り返りつつ、改めてAIの適正な活用とそれを支えるガバナンスが政策議論上もビジネスの上でも日本社会で重要なトピックであることが強調されました。AIGAとして、今後AIガバナンスの構築を率先していくとともに、AIが社会にもたらす便益もビジネスを通じて発信していくことで、社会のAIという新技術に対する受容性を高めていく方向性を確認し、今後ますます活動を活性化させることについてメッセージをいただき、特別企画は終了となりました。
AIGAの活動本格化以来、AIガバナンスのあり方を模索する議論は官民、国内外でますます加速しています。今回の特別企画は、省庁横断でAI政策を検討するAI戦略チームを率いる村井内閣官房副長官を迎え、会員企業のCクラスを多数交え、ハイレベルで日本のAI政策の検討経緯と今後の展望を捉え直し議論する機会となりました。
AIGAの4つのWGでは、会員各社の実務層のメンバーにもご協力いただき、ケーススタディや制度検討動向に沿ったAI実務の課題感の取りまとめ、認証制度の枠組み検討や行動目標の策定など、それぞれの観点・レイヤーでAIガバナンス実装のための取組を進めています。今後、「AIガバナンスナビ」の作成・運用も交え、ますます地に足のついたAIガバナンスの実現とAIの活用推進に貢献する取組を進めていきます。